歯学部5年の佐橋です。歯学部で学生から最も恐れられている(肌感覚)口腔病理学の仙波伊知郎 教授。でも実はすっごく優しい人なんじゃないかなって、ずっと僕は思っていたんです。今回は、その疑問を晴らすために直接インタビューしてきました。

仙波先生は、なぜ怒るのか?正しい勉強の仕方は?何で勉強しなきゃいけないの?全歯学部生必見です!

 

Profile

経歴

・昭和56年 九州歯科大学卒業

・昭和56年 鹿児島大学歯学部・助手

・平成16年 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科・教授

専門
・人体病理学
・地理病理学
・口腔病理学
(病理学とは、病気の原因、発生機序の解明や病気の診断を確定することを目的とし、細胞組織を顕微鏡などを用いて検査・研究する学問)
趣味

・机上登山(必要な道具やバスの時間などを計画し、登山している妄想をすること。学生時代、年間120日は山に行っていてヒマラヤに登る計画もしていた。)

・天文学と量子力学の本などを眺めること。

・好きなユーチューバーは、「Kei Fujimoto」

教育の目標

サハシ
僕から見て、仙波先生のイメージというと、教育に力を入れている先生なんじゃないかなと思っているんですが、仙波先生の教育としての目標はありますか?

仙波先生
文字通り、教えて育てるという意味では教育は無効なんじゃないかなと思うんです。

 

社会に出て10年経った時に、大学で教えてもらったことが「有効だった」ということは結構マレなんじゃないかと思うんですね。

 

教え育てられたのではなく、自ら学んで育ったんだという”自負心”努力してうまくいったので次もチャレンジしようとする”自己効力感”

これらの醸成が、教育というシステムの中での目標なんじゃないかという気がするんです。

 

私が授業で「大学以前までの学習方略である”習う”ということではなくて、自ら学ぶ”ということを実現できる学習方略を大学に入ってからは開発してください」と言うのは、そのことが結果、”自己効力感”に繋がって行くと考えているからです。

 

そのために、理想では学生の自主性に任せたいところですが、そうは言っても、人間怠惰なのでカリキュラムがあって、それを行うということになります。

なぜ怒るのか?

サハシ
先生は普段お話をさせていただく時には、すごく優しいと思うんですけど、授業中に厳しい時ってあると思うんです

仙波先生
感じるでしょ?笑

サハシ

「出て行ってください。この部屋からではありません。歯学部からです。」とか

でも、それは怒りからくる言葉ではなくて、教育的な目的があると思ってるんですがどうですか?

 

授業の中で、具体的な内容を説明したり、ロジックを展開した時に伝わればいいけれども、やはり、それだけでは伝わらないところがあって。

 

気が付いてもらわなければいけない時には、違うトーンで違う形相で、が必要だと思っているんです。

例えば、実習室では皆がそれぞれの作業をしているので、皆のアテンションを惹きつけるためには、非日常的なアクションをしなければと思って、上を向いて一生懸命大きな声を出します。

 

でもこれにはエネルギーがいるんですよ。笑
最近では、エネルギーがなくなって、怒りの表現などが減ってきていると思います。

 

 

サハシ
それでも先生がそのやり方を続けていくのはどうしてですか?

仙波先生
それは、私の頭が悪いからです。

 

もっと別の効率的でコストパフォーマンスの高い方略が思いつかないので、いまだにこうしています。

個別の面談を行う事に関しては、話せばわかるんじゃないかと思っているからです。

 

人間は100万年くらいはゲノムのレベルで言えば変わっていないので、脳みそもフィジカルには変わっていない。

なので、多少世代が違っていても、人種が違っていても、育った歴史・環境・文化が違っても、理解をし合えるんじゃないかという期待と希望があるので続けています。

一方では、そのやり方は無効だという気持ちも、もちろんあります。矛盾をしているんです。

勉強について

サハシ
なるほど、では関連して、勉強について仙波先生がオススメする勉強方法はありますか?

仙波先生
勉強っていうと脳の中の精神的な活動だと思われますが、やってるのは物理的な物質でできている脳みそなんですね。

 


「脳は筋肉の奴隷だ」
と言った人もいる訳ですけど

循環器系や筋肉の運動によって、体性神経のシグナルが脳にきている中で、脳が存在できるのであって、脳は全身からの身体的影響を受けている訳です。

 

そういう意味でも、学んだりする脳の精神活動は、身体的活動そのものだと言えるわけです。

学ぶためには体が必要。体を動かしてリフレッシュして、いいアイデアを出すことが必要だと思っています。

 

例えば昔、京都学派というのは、今で言う哲学の道を散歩しながら色々考えるということをしていましたね。

もちろん、運動と思考が常に同時という意味ではなくて、時間差でもいいですが良いバランスをとるといいですね。

 

 

サハシ
先生はなぜ勉強をしなければいけないと考えていますか?

仙波先生
自分で自分を知るためです。自分で自分の存在を認識するため。自分の価値を自分で評価するために学ぶんです。

 

人類の脳は「見えないものは、無いことにしてしまいがちだ。」ということです。

コウモリなど、超音波で世の中で理解している場合もありますが、

一方で、我々の脳みそは視覚を中心にしてできてきたため、視覚的なものを中心に考えるようにできているんです。

つい、最近人類が初めてブラックホールを見ました。これは電波望遠鏡の電波の強弱を映像化したというだけで、光として見えてるわけではないんです。つまりは、人間が理解をするためにビジュアライズして表す必要があったということです。

 

学びは、見えないものを見るために行うんです。

 

目には、顕微鏡がついていないので、肉眼では細胞が見えませんが、

その細胞の変化を想像できますよね?知っている場合は見えるわけです。そういうことができる我々の脳なんです。

 

物事を考えるときに、人類は「見えないものはないものとする」っていうバイアスがかかっていることを常に思い直さないと、落とし穴や大事なものに気がつかなくなると考えるべきなんです。

思い直すのは、前頭葉の機能なんですね。前頭葉の思い直しの機能を支えているのは、記憶野に蓄積された知識です。

つまり学びが必要で、自分の存在を考えるときの大事な視点になるのではないかと思うんですね。

若かりし頃の仙波先生

 

サハシ
学生に伝えたいことはありますか?

仙波先生
高い山は裾野が広いように、1つのことに秀でて見える人は、その背景にはたくさんのことがあるんです。

 

なので、歯科医として成功してやるんだって言う人こそ、むしろ他のことを趣味としてたくさん知っておくことが大切だと思います。現時点でのオススメは、量子力学とコンピューターサイエンスと統計学ですね。

他の歯科医師にはできないことをして抜きん出る。「寧ろ鶏口と為るも、牛後と為る無かれ」と言うことです。40才前の若い時に、みんなと異なることをいとわずに、また恐れずに手を出すべきです。

 

サハシ
最後に、仙波先生にとって病気とは?

仙波先生
病気というのは誰にとってもですが、辛いことです。

 

患者さんの気持ちになるため、辛さを共感するためのツールとして病理学があって、直接辛そうな顔を見なくても、細胞組織を見てこれは辛いんだろうなと思えるように標本を見たいなと思ってます。

 


 

今回は、勉強に関してをまとめましたが、3時間のインタビューでは、先生の学生時代の話(主に登山)や恋愛の話(奥様は、出席番号が隣の人だったらしいです。笑)など普段の仙波先生からは想像できないこともたくさん聞けて楽しかったです。

仙波先生は、朗らかで上品な雰囲気を持つ一方で、膨大な知識を正しく定義付けて論理的に話すことができる方で、圧倒されてしまいました。笑

あらためて、インタビューのご協力ありがとうございました!

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