先に出された水をちょうど飲み終わったとき、入り口から吉家先生の声がした。
Infoの活動で先生方のインタビューは何回も立ち会ったが、居酒屋をインタビュー場所に指定されたのは吉家先生が初めてだ。
奥様から勧められたという時計が、程よく焼けた素肌によく映える。聞くところによるとインタビューの直前まで平川の海で波に乗っていたらしい。マリンスポーツ、モータースポーツ、サイクリングに海外旅行、
「ほんとに医者なのか…?」
失礼ながらそう思ってしまうほど吉家先生の周りには「遊び」に関する噂が絶えない。
ビールを注文するなり、「研究なんかしてないよ。めちゃくちゃ遊んでばっかり。」と、はにかむ微生物学者の吉家先生に今回は、「研究」とは何たるか、をお伺いした。
基礎研究の大切さ
理由付けしようと思えば、いろいろな理由を作ることができるんだけど、
はっきり言ってこいつらどれくらい生きれんの?って単純に興味があったから
ノーベル賞を取ったGFPタンパクについて知っているかな?あの研究をした下村修先生だって研究を始めたきっかけは「どうしてクラゲが緑にひかるんだろう」それだけだった。
ふつうは「クラゲが緑に光ります。それを調べてなんになるの?」って思ってしまうよね。
でも結局あとから時代が追い付いて「すごい役に立つ!ノーベル賞だ!」ってなった。
研究の結果を生かしていくのは別の人でもいいんだよ。
でも今の日本では、「成果に意味のある研究にはお金を出すけど、成果に意味の見出しにくい研究にはお金を出さない」という流れが強くなってきている。
その結果、「単純な興味から出発した研究」は少なくなってしまった。
無駄と思われるようなことは自由に研究、勉強できない。
大発見のスタートっていうのは、ぱっと見「研究しても無駄じゃないか?」と思えるような個人の興味なんだよね。
だから日本は今ノーベル賞大国なんていわれているけれど、これからはもう難しいと思う。
いま言ったような「単純な興味から出発した研究」というのはほとんどないからね。
基礎研究に対して「それを調べてどうするの?」という質問をしてはいけないんだよ。
「無駄と思われるようなこと」を調べていくことは本当は大切なことなんだ。
自分たちも大学生として研究に取り組む場面があります。
そういうときに「こんな研究して本当に役に立つのかよ…」とモチベーションが下がってしまうこともあります。
だから研究において「目を見張るような大活躍を常にしなくちゃいけない」かといわれるとそうじゃない。
「偉い人たちがやっている分かりやすく人の役に立ちそうな研究」「こじんまりとした個人の興味から出発した研究」どちらの研究も「将来人の役に立つ」という面では優劣ないんだよ。
「今すぐ結果がほしい。今すぐわかりたい」それが若い時の価値観。それが若さ。
歳をとってくるとさ、「いま意味があるかわからないけれど、いま知りたいからやってます。」
「あとから誰かが理解してくれるでしょう」っていう余裕が出てきた気がするよ。
ポストイットって知ってる?貼ってはがせるメモ用紙。あの紙に塗ってある糊を作った人(スペンサー・シルバー)は、本当は絶対にはがせない強力な糊を作りたかった。でも開発の途中で間違って簡単に剥がせる糊を間違って作ってしまった。それが今では知っての通りだよ。
電子レンジだってそう。発明者のパーシー・スペンサーは海軍でレーダーのマイクロ波発装置の前に立っていた。そして、ポケットの中のチョコレートが溶けていることに気が付いた。これが電子レンジ開発の始まり。
微生物学てきなことを言えば、抗生物質のペニシリンも医師のアレクサンダー・フレミングが、シャーレにたまたま落ちたカビから発見した。
運と表現したけどもっと適切な言い方をすれば
「セレンティピティー」が大事なんだ。
セレンティビティーとは
セレンディピティ(英語: serendipity)とは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。 また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。 平たく言うと、ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取ることである。
Weblioより引用
大切なことは気づけるかどうか。
「どうしてこうなるんだろう?」と好奇心から芽生えた「気づき」が、自分の知りたいこととなって、自分のやりたいことになる。
最終的に研究テーマになっていくわけだよ。
この気づきを得るためには、日ごろからいろいろなことに興味を持つ必要がある。
だから大学生のうちはいろいろなことに好奇心を向けてほしい。好奇心を持たないと気づきには近づくことはできないからね。
当初3時間を予定していたインタビューもかなり盛り上がりいつの間にか終電間際。
当初のニコニコとは一味違う、先生の研究について語る真剣な眼差しが、研究を心から楽しまれている姿をより一層鮮明に感じさせてくれる、そんなインタビューでした。
もうひとつ吉家先生のインタビューの中で印象に残った言葉があります。
「求めよ。さらば与えられん。」
自ら進んで求める姿勢の重要性を説くこの言葉。研究においても自分の興味から「求める」ことが大切。
実は吉家先生、今年で65歳を迎えられるということで来年ご退官される予定でいらっしゃいます。
このインタビューで吉家先生に興味を持たれた方、「求める」ならば今のうちに。